ベクトル自己回帰モデル

久しぶりに時系列分析の話題です。
今回はベクトル自己回帰(VAR)モデルを紹介します。
参考書はいつもの沖本先生の経済・ファイナンスデータの計量時系列分析です。
(VARモデルは第4章)

ベクトル自己回帰(VAR)モデルは、自己回帰(AR)モデルをベクトルに一般化したものです。
自然数$p$に対して、ベクトル $\mathbf{y}_t$ を定数(のベクトル)と、自身の$p$期以内の過去の値に回帰したモデルになります。
つまり、次のようなモデルになります。
$$
\mathbf{y}_t = \mathbf{c}+\mathbf{\Phi}_1\mathbf{y}_{t-1}+\cdots+\mathbf{\Phi}_p\mathbf{y}_{t-p}+\mathbf{\varepsilon}_t,
\ \ \ \mathbf{\varepsilon}_t\sim W.N.(\mathbf{\Sigma})
$$
($\mathbf{\varepsilon}$がなぜか太字にならない。自分の環境だけかな。)

ここで、$\mathbf{c}$ は $n\times 1$定数ベクトルで、$\mathbf{\Phi}_i$は$n\times n$行列です。
$\mathbf{\varepsilon}_t$はベクトルホワイトノイズと呼ばれるものです。
(単純に各要素がホワイトノイズのベクトルというわけではありません。このブログでは新出語なので後日別の記事で取り上げます。)

2変量のVAR(1)モデル、要するに実質的なVARモデルとしては一番小さいモデルを具体的に表記すると次のようになります。

$$\left\{\begin{matrix}\
y_{1t} &=&c_1+\phi_{11}y_{1,t-1}+\phi_{12}y_{2,t-1}+\varepsilon_{1t},\\\
y_{2t} &=&c_2+\phi_{21}y_{1,t-1}+\phi_{22}y_{2,t-1}+\varepsilon_{2t}\
\end{matrix}\
\right.\
\left(\begin{matrix}\varepsilon_{1t}\\\varepsilon_{2t}\end{matrix}\right)\sim W.N.(\mathbf{\Sigma})$$

$$
\Sigma = \left(\begin{matrix}\
\sigma_1^2 & \rho\sigma_1\sigma_2\\\
\rho\sigma_1\sigma_2 & \sigma_2^2\
\end{matrix}\right)\
$$

さて、具体的にモデルの形を書き出したのでパラメーターの数を数えてみたいと思います。
回帰式の係数(4個)と定数(2個)で計6個、さらに分散共分散行列部分が3個で、合計9個のパラメーターを持っていることがわかります。

一般的に$n$変数のVAR(p)モデルの場合、
回帰式の定数が$n$個、係数が$n^2p$個で合計$n(np+1)$個、分散共分散行列部分が$n(n+1)/2$個のパラメーターを持ちます。
そのため、比較的大きなモデルになってしまいます。

自分の経験でも、モデルに組み込みたい変数の値の数($n$)は10個も20個もあって、ラグ($p$)は3期くらい前まで見たい、
ということがありましたが、集められたデーターが全然足りず、推定が全然できないということがありました。
(そのときは結局変数をかなり絞り込んだモデルをいくつも作って個別に検証しました。)

さて、ベクトル自己回帰モデルを使う目的ですが、主に二つあります。
一つは、予測の精度向上です。
自己回帰モデルでは、ある値が自身の過去の値で回帰できることこを仮定して予測しますが、
ある値が自分の過去の値以外の外部要因に一切影響を受けない、ということは実用上あまりなく、
大抵は複数の値が相互に関係しているので、複数の種類の値を用いて予測することにより精度の向上が期待できます。

もう一つは、複数の変数間の関係を分析することです。
モデルの形からも明らかなように、それぞれの変数が他の変数にどれだけ寄与しているかをみることができます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です