ベクトル自己回帰モデルについて理解していくにあたって、弱定常過程やホワイトノイズの概念をベクトルに拡張したものを考える必要があるので、
ここで各用語の定義を整理しておきます。(前回の記事と順番前後してしまいました。)
出典は今回も沖本先生の本です。
また、1変数の場合については次の記事をご参照ください。
参考: 確率過程の弱定常性と強定常性
まず、 $\mathbf{y}_t = (y_{1t}, y_{2t}, \ldots, y_{nt})^{\top}$ は $n\times1$の行列(列ベクトル)としておきます。
そして、これの期待値ベクトルは普通に要素ごとの期待値をとって、次のように定義されます。
$$
E(\mathbf{y}_t) = (E(y_{1t}), \ldots, E(y_{nt}))^{\top}.
$$
次に、自己共分散を拡張します。ここからがポイントで、$y_{it}$に対して$y_{i,t-k}$との共分散を考えるだけではなく、
$\mathbf{y}_t$の他の要素の過去の値$y_{j,t-k}$との共分散も考慮します。そのため、結果は次のように行列になります。
そのため、$k$次自己共分散行列は次の$n\times n$行列で定義されます。
$$
\begin{align}
Cov(\mathbf{y}_t, \mathbf{y}_{t-k}) &= [Cov(y_{it},y_{j,t-k})]_{ij}\\
&=\left(\
\begin{matrix}\
Cov(y_{1t},y_{1,t-k}) & \cdots & Cov(y_{1t},y_{n,t-k}) \\\
\vdots & \ddots & \vdots \\\
Cov(y_{nt},y_{1,t-k}) & \cdots & Cov(y_{nt},y_{n,t-k}) \
\end{matrix}\
\right)
\end{align}.
$$
この行列の対角成分は、各変数の$k$次自己共分散に等しくなります。
また、$k=0$の時、$k$次自己共分散行列は、分散共分散行列に等しくなり、対称行列になりますが、
$k\neq 0$の時は、一般には対称行列にならないので注意が必要です。
期待値も$k$次自己共分散行列も定義式の中に$t$が入っているので、
これらは$t$の関数なのですが、この値がどちらも$t$に依存しなかった時、
1変数の場合と同じように、ベクトル過程は弱定常と言われます。
弱定常性を仮定する時は、期待値を$\boldsymbol{\mu}$、$k$次自己共分散行列を$\boldsymbol{\Gamma}_k$と書きます。
なお、$\boldsymbol{\Gamma}_k = \boldsymbol{\Gamma}^{\top}_{-k}$が成り立ちます。(転地を等号が成り立たない点に注意が必要です。)
さて、自己共分散行列は、異なる時点での各変数の関係を表したものですが、各要素の値の大小は単位に依存してしまい、
これだけ見ても関係が強いのか弱いのかわかりません。
そこで、自己共分散行列を標準化した自己相関行列を考えます。
それは次の式で定義されます。
$$
\boldsymbol{\rho}_k = Corr(\mathbf{y}_t, \mathbf{y}_{t-k}) = [Corr(y_{it},y_{j,t-k})]_{ij}.
$$
また、$\mathbf{D} = diag(Var(y_1), \ldots, Var(y_n))$、($\mathbf{y}_t$の分散を対角成分に持つ対角行列) とおくと、
次のように書けます。
$$
\boldsymbol{\rho}_k = \mathbf{D}^{-1/2} \boldsymbol{\Gamma}_k \mathbf{D}^{-1/2}.
$$
自己相関行列も自己共分散行列と同じように、対角成分は各変数の自己相関になり、
$\boldsymbol{\rho}_k = \boldsymbol{\rho}^{\top}_{-k}$ が成立します。
長くなってきたので一旦記事を切ります。(ベクトルホワイトノイズは次回。)