この次の記事で、幾何分布の性質(期待値)を使いたいのでおさらいしておきます。
おさらい:
成功確率が$p$である独立なベルヌーイ試行を繰り返す時、初めて成功するまでの試行回数$X$が従う確率分布を幾何分布と言います。
(本やサイトによっては、初めて成功する回数ではなく、初めて成功するまでの失敗回数で定義することもあります。
負の二項分布との関係が明確になったり、台が0始まりになったりするので実は個人的にはそちらの方が好みです。)
確率質量関数は次のようになります。
$$
P(X=k) = (1-p)^{k-1}p \quad (k = 1, 2, 3, \cdots).
$$
確率$1-p$で発生する失敗を$k-1$回続けた後に、確率$p$で発生する成功を1回、と考えれば自明ですね。
期待値は$\frac{1}{p}$、分散は$\frac{(1-p)}{p^2}$です。
モーメント母関数は次の式になります。
$$
M_X(t) = \frac{pe^t}{1-(1-p)e^t} \qquad(t<-\log{(1-p)}).
$$
期待値と分散はこのモーメント母関数から算出することもできるのですが、見ての通り、この関数の微分、2回微分を計算していくのは結構手間です。
なので、幾何分布に関しては、期待値と分散は直接計算するのがおすすめです。
(といってもこれもそこそこトリッキーなことをするのですが。)
では、期待値から導出していきましょう。まず期待値の定義です。
$$
E(X) = \sum_{k=1}^{\infty}k(1-p)^{k-1}p.
$$
ここで、$\frac{1}{1-y}$のマクローリン展開を考えます。
$$
\frac{1}{1-y} = 1+y+y^2+\cdots = \sum_{k=0}^{\infty}y^k.
$$
これを両辺$y$で微分すると次の式になります。(しれっと微分と極限の順序交換をしています。数学科の学生さんなどはこの辺りも厳密に議論することをお勧めします。)
$$
\frac{1}{(1-y)^2} = \sum_{k=1}^{\infty}ky^{k-1}.
$$
この式に、$y=1-p$を代入すると次のようになります。
$$
\sum_{k=1}^{\infty}k(1-p)^{k-1} = \frac{1}{(1-1+p)^2} = \frac{1}{p^2}.
$$
両辺に$p$をかけることで、
$$
E(X) = \frac{1}{p}
$$
が導かれました。
成功率が$p=\frac{1}{n}$のベルヌーイ試行は、平均$\frac{1}{p}=n$回で成功する、と考えると直感とよくあいますね。
続いて、分散$V(X)$を導出するために、$E(X^2)$を計算していきましょう。
先ほどのマクローリン展開の微分の式から始めます。
$$
\frac{1}{(1-y)^2} = \sum_{k=1}^{\infty}ky^{k-1}.
$$
この両辺に、$y$を掛けます。
$$
\sum_{k=1}^{\infty}ky^{k} = \frac{y}{(1-y)^2}
$$
そして、この両辺をもう一回$y$で微分します。
$$
\sum_{k=1}^{\infty}k^2y^{k-1} = \frac{1+y}{(1-y)^3}.
$$
$y=1-p$とすると、
$$
\sum_{k=1}^{\infty}k^2(1-p)^{k-1} = \frac{2-p}{p^3}.
$$
両辺に$p$をかけて、
$$
\sum_{k=1}^{\infty}k^2(1-p)^{k-1}p = \frac{2-p}{p^2}.
$$
この左辺は$E(X^2)$ですね。
よって、分散$V(X)$は、次のように求まります。
$$
\begin{align}
V(X) &=E(X^2) - E(X)^2\\
&=\frac{2-p}{p^2} - \left(\frac{1}{p}\right)^2\\
&=\frac{1-p}{p^2}.
\end{align}
$$