グレンジャー因果性

ここ数回VARモデルの話を書いていますが、VARモデルの目的の一つは複数の時系列データ間の関連を調べることです。
普通は、各データにその背景があって、それらに関する理論からあの値がこうなったらどういう影響があってこっちの値がどうなる、と調べるのですが、
データだけから因果性の有無を判別することができると非常に便利です。
そのような考えを元に、 Grangerが提案したのがグレンジャー因果性です。

今回の記事も、沖本先生の経済ファイナンスデータの軽量時系列分析を元に各定義を紹介していきます。

定義(グレンジャー因果性)
現在と過去の$x$の値だけに基づいた将来の$x$の予測と、現在と過去の$x$と$y$の値に基づいた将来の$x$の予測を比較して、
後者のMSEの方が小さくなる場合、$y_t$から$x_t$へのグレンジャー因果性(Granger causality)が存在すると言われる。

これは、$x,y$の2つの過程に対する定義ですが、もっと多くの変数が存在する場合に拡張できます。
それが次の一般的なグレンジャー因果性です。

定義(一般的なグレンジャー因果性)
$\mathbf{x}_t$と$\mathbf{y}_t$をベクトル過程とする。また、$\mathbf{x}$と$\mathbf{y}$の現在と過去の値を含む、時点$t$において利用可能な情報の集合を
$\boldsymbol{\Omega}_t$とし、$\boldsymbol{\Omega}_t$から現在と過去の$\mathbf{y}$を取り除いたものを、$\tilde{\boldsymbol{\Omega}}_t$とする。
この時、$\tilde{\boldsymbol{\Omega}}_t$に基づいた将来の$\mathbf{x}$の予測と、$\boldsymbol{\Omega}_t$に基づいた将来の$\mathbf{x}$の予測を比較して、
後者のMSEのほうが小さくなる場合、$\mathbf{y}_t$から$\mathbf{x}_t$へのグレンジャー因果性が存在すると言われる。
ここで、MSEの大小は行列の意味での大小であることに注意されたい。

沖本本によると、グレンジャー因果性が頻繁に用いられるようになったたった一つの理由は、VARの枠組みでは、
グレンジャー因果性の有無が比較的簡単に明確な形で検証できるからだそうです。

2変量VAR(2)モデルを用いた説明が紹介されているのでみていきましょう。
モデルを具体的に書くと次のようになります。
$$
\left\{\begin{matrix}\
y_{1t}=c_1+\phi_{11}^{(1)}y_{1,t-1}+\phi_{12}^{(1)}y_{2,t-1}+\phi_{11}^{(2)}y_{1,t-2}+\phi_{12}^{(2)}y_{2,t-2}+\varepsilon_{1t},\\\
y_{2t}=c_2+\phi_{21}^{(1)}y_{1,t-1}+\phi_{22}^{(1)}y_{2,t-1}+\phi_{21}^{(2)}y_{1,t-2}+\phi_{22}^{(2)}y_{2,t-2}+\varepsilon_{2t}\
\end{matrix}\
\right.\
$$

ここで、$y_{2t}$から、$y_{1t}$へのグレンジャーレンジャー因果性が”存在しない”ということjは、
$\phi_{12}^{(1)}=\phi_{12}^{(2)}y_{2,t-2}=0$ということ同値です。
一般のVAR(p)において、$y_{2t}$から、$y_{1t}$へのグレンジャー因果性が存在しないとは、VARの$y_1$の式において、$y_2$に関係する係数が全部$0$ということになります。
その結果、VARの枠組みだと、F検定を用いてグレンジャー因果性を検定できます。
(複数の回帰係数をまとめて検定するので、t検定ではなくF検定だそうです。この辺り、自分も理解が浅いので別途勉強し直そうと思います。)

手順としては次のようになります。
$H_0: \phi_{12}^{(1)}=\phi_{12}^{(2)}y_{2,t-2}=0$ を検定すれば良いので、まずは、
$$
y_{1t}=c_1+\phi_{11}^{(1)}y_{1,t-1}+\phi_{12}^{(1)}y_{2,t-1}+\phi_{11}^{(2)}y_{1,t-2}+\phi_{12}^{(2)}y_{2,t-2}+\varepsilon_{1t}
$$
をOLSで推定して、残渣平方和を$SSR_1$とします。
次に制約を課したモデル、
$$
y_{1t}=c_1+\phi_{11}^{(1)}y_{1,t-1}+\phi_{11}^{(2)}y_{1,t-2}+\varepsilon_{1t}
$$
をOLSで推定して、その残差平方和を$SSR_0$とします。
この時、F統計量が次の式で定義されます。
$$
F\equiv \frac{(SSR_0-SSR_1)/2}{SSR_1/(T-5)}
$$
そうすると、$2F$は漸近的に$\chi^2(2)$に従うことが知られています。
なので、$2F$の値を$\chi^2(2)$の$95%$店と比較して、$2F$の方が大きければ、$y_2$から$y_1$へのグレンジャー因果性が存在しないという
帰無仮説を棄却して、$y_2$は$y_1$の将来を予測するのに有用であると結論づけられます。

これは1つの過程から別の1つの過程への影響を調べるものですが、もっと一般には次の手順になります。
(ここも沖本先生の本の丸写し)

n変量VAR(p)モデルにおけるグレンジャー因果性検定の手順
(1) VARモデルにおける$y_{kt}$のモデルをOLSで推定し、その残差平方和を$SSR_1$とする。
(2) VARモデルにおける$y_{kt}$のモデルに制約を課したモデルをOLSで推定し、その残差平方和を$SSR_0$とする。
(3) F統計量を
$$
F\equiv \frac{(SSR_0-SSR_1)/r}{SSR_1/(T-np-1)}
$$
で計算する。ここで、$r$はグレンジャー因果性検定に必要な制約の数である。
(4) $rF$を$\chi^2(r)$の$95%$点と比較し、$rF$のほうが大きければ、ある変数(群)から$y_{kt}$へのグレンジャー因果性は存在し、小さければグレンジャー因果性は存在しないと結論する。

あら?帰無仮説が棄却できなかった時に、存在しないって結論していいのかな?ここの記述はちょっと怪しいですね。

最後に、グレンジャー因果性の長所と短所がまとめられています。(沖本本で株式市場の例が紹介された後。)
長所は定義が明確であることt、データから容易に検定できることです。

短所は、まずはグレンジャー因果性が通常の因果性と異なっていることです。
グレンジャー因果性は因果性が存在する必要条件ではありますが、十分条件でありません。
なので、グレンジャー因果性があったからといって因果性があるとは結論づけられません。
また、グレンジャー因果性の方向と、通常の因果性の方向が同じになると限らず、
極端な例では逆向きだけ存在することもあるそうです。
そのため、何か別の理論等により因果関係の方向がはっきりしている時以外は、
定義通りに、予測に有用かどうかだけの観点で解釈することが良さそうです。

また、グレンジャー因果性は訂正的概念で、関係の強さは測れません。
(F統計量が大きいほど関係が強いみたいな考えは誤りということですね。)

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