非直交化インパルス応答関数

グレンジャー因果性で複数の過程の間の関係を調べる方法を紹介してきましたが、グレンジャー因果性には
関係の強さを測れないという問題がありました。
そこで、それを補うツールとしてインパルス応答関数(IRF、 impulse response function)というものがあります。

例によって、沖本先生の本を参照しながら紹介させていただきます。

インパルス応答関数はある変数にショックを与える(要するに少し値を変動させる)と、
それが他の変数に与える影響を分析することができるものです。
VARモデルにおいては、ショックの識別の仕方によって、複数のインパルス応答関数が存在しますが、
まずは非直交化インパルス応答関数について説明します。

一般的なn変量のVAR(p)モデルを考えます。
yt=c+Φ1yt1++Φpytp+εt,   εtW.N.(Σ)
本では、Σは対角行列ではないと仮定されていますが、対角行列の場合も同じだと思います。
(対角行列だと、その直後に登場する直行化インパルス応答関数と全く同じになってしまうで説明の都合上仮定されているのかと。)

この時、非直交化インパルス応答関数は次のように定義されます。

定義 (非直交化インパルス応答関数):
yjtの撹乱項εだけに、1単位(または、1標準偏差)のショックを与えた時の、
yi,t+kの値の変化は、yjのショックに対するyik期後の非直行化インパルス応答と呼ばれる。
また、それをkの関数としてみたものは、yjのショックに対するyiの非直行化インパルス応答関数と言われる。

変化量なので、偏微分を用いて次のように表記できます。(1単位のショックを与えた場合。)
IRFij(k)=yi,t+kεjt,   k=0,1,2,.
1標準偏差のショックを与えた場合は、IRFij(k)Var(εjt)を掛けることで求まります。

さて、具体的な計算方法ですが、k=0から逐次的に計算していくことで簡単に求まります。

次のモデルを例に、計算例が乗っているのでやってみましょう。
{ y1t=1+0.6y1,t1+0.3y2,t1+ε1t y2t=1+0.1y1,t1+0.8y2,t1+ε2t   ,(ε1tε2t)W.N.(Σ)
Σ=(41.21.21)

y1に1単位のショックを与えた時の非直交化インパルス応答関数を具体的に計算します。
k=0の場合は簡単で、そのまま微分するだけです。
IRF11(0)=y1tε1t=1IRF21(0)=y2tε1t=0
この後は、多変数関数の合成関数の連鎖律を使って計算していきます。k=1の場合、y1,y2それぞれについて計算すると次のようになります。
IRF11(1)=y1,t+1ε1t=0.6×y1tε1t+0.3×y2tε1t=0.6IRF11(0)+0.3IRF21(0)=0.6
IRF21(1)=y2,t+1ε1t=0.1×y1tε1t+0.8×y2tε1t=0.1IRF11(0)+0.8IRF21(0)=0.1

この後の k=1,2,3,についても次の漸化式で逐次的に計算できます。
{  IRF11(k)=0.6IRF11(k1)+0.3IRF21(k1) IRF21(k)=0.1IRF11(k1)+0.8IRF21(k1)   
この式の中に元のモデルの式の定数項ができませんが、それはインパルス応答関数が変化量に着目しているため、
無関係(微分で消えてしまった)からです。

さて、これで非直交化インパルス応答関数が計算できましたが、
これには一つ問題点があります。
というのも、最初のモデルの式のΣを見るとわかるとおり、ε1tε2tには
相関があることが仮定されています。
分散共分散行列から相関係数を計算すると
Corr(ε1t,ε2t)=1.2(4×1)=0.6
となり、そこそこ強い相関です。
そのため、ε1tにだけショックを与えて、ε2tはそのままという、
非直交化インパルス応答関数には少し不自然な点が残ります。
すでに長くなってきたので、この点を解消する方法につては次の記事で紹介させていただきます。

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