直交化インパルス応答関数

前回の記事: 非直交化インパルス応答関数
の続きです。今回も引用元は沖本本です。

最後に書いたとおり、非直交化インパルス応答関数には、撹乱項の間の相関を無視しているという問題がありました。
これを解決するには、撹乱項を互いに無相関な撹乱項に分解して、それぞれにショックを与えたときの各変数の変化を調べることです。
しかし、一般に撹乱項を互いに無相関な撹乱項に分解することは不可能で、何かしらの仮定が必要になります。
そこで、撹乱項の分散共分散行列$\boldsymbol{\Sigma}$の三角分解を用いて、撹乱項を互いに無相関な撹乱項に分解できると仮定します。

定義 (直交化インパルス応答関数):
撹乱項の分散共分散行列の三角分解を用いて、撹乱項を互いに無相関な撹乱項に分解したとき、
互いに無相関な撹乱項は直交化撹乱項といわれる。また、$y_j$の直交化撹乱項に1単位または1標準偏差のショックを与えた時の、
$y_i$の直交化インパルス応答を時間の関数としてみたものは、$y_j$に対する$y_i$の直交化インパルス応答関数といわれる。

一般的に、インパルス応答(関数)というというと直交化インパルス応答(関数)を指すそうです。
(後日の記事でstatsmodelsによる実装紹介しますが、このモジュールでは非直交化のほうをデフォルトにしてるように見えます。
もしそうだとしたら気をつけて使わないといけないので、記事にする前にもう一回検証します。)

さて、もう少し具体的に定義します。
まず撹乱項 $\boldsymbol{\varepsilon}_t$ の分散共分散行列$\boldsymbol{\Sigma}$は正定値行列であるので、
$\mathbf{A}$を対角成分が1に等しい下三角行列、$\mathbf{D}$を対角行列として、
$$
\boldsymbol{\Sigma} = \mathbf{ADA^{\top}}
$$
と三角分解することが出来ます。
(と、本には書いてありますが、分散共分散行列が正定値なだけでなく、対称行列であることも考慮する必要あると思います。)

このとき、直交化撹乱項 $\mathbf{u}_t$は、
$$
\mathbf{u}_t = \mathbf{A}^{-1}\boldsymbol{\varepsilon}_t
$$
で定義され、各変数固有の変動を表すとみなされます。
なお、
$$
\begin{align}
Var(\mathbf{u}_t) &= Var(\mathbf{A}^{-1}\boldsymbol{\varepsilon}_t) = \mathbf{A}^{-1} Var(\boldsymbol{\varepsilon}_t)(\mathbf{A}^{-1})^{\top} \\
& =\mathbf{A}^{-1}\boldsymbol{\Sigma}(\mathbf{A}^{\top})^{-1}=\mathbf{D}
\end{align}
$$
であることから、$\mathbf{u}_t$が互いに無相関であることが分かります。
また、それぞれの分散も確認できます。

$y_j$のショックに対する$y_i$の(直交化)インパルス応答関数は、$u_{jt}$に1単位のショックを与えたときの、
$y_i$の反応を時間の関数と見たものであり、
$$
IRF_{ij}(k) = \frac{\partial y_{i,t+k}}{\partial u_{jt}}, \ \ \ k=0, 1, 2, \dots.
$$
と表されます。
1単位ではなくて、1標準偏差のショックを与えたときの変数の反応を見たい時は、
$IRF_{ij}(k)$に$\sqrt{Var(u_{jt})}$を掛けることで求まります。(非直交化のときと同じですね)

1標準偏差のショックを与えたときのインパルス応答関数を求める方法として、
三角分解の変わりにコレスキー分解を用いて撹乱項を分解して、
その分解した撹乱項に1単位ショックを与える方法も紹介されていますが、
撹乱項の絶対値が標準偏差倍違うだけの話なので省略します。

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