今回は直交化インパルス応答関数を実際に計算してみます。
例として扱うのは、非直交化インパルス応答関数の記事と同じ次の例です。
$$
\left\{\begin{matrix}\
y_{1t}&=& -1+ 0.6 y_{1,t-1}+ 0.3 y_{2,t-1}+\varepsilon_{1t}\\\
y_{2t}&=& 1 + 0.1 y_{1,t-1}+ 0.8 y_{2,t-1}+\varepsilon_{2t}\
\end{matrix}\
\right.\
,\left(\begin{matrix}\varepsilon_{1t}\\\varepsilon_{2t}\end{matrix}\right)\sim W.N.(\boldsymbol{\Sigma})
$$
$$
\boldsymbol{\Sigma} = \left(\begin{matrix}4&1.2\\1.2&1\end{matrix}\right)
$$
さて、まずは$\boldsymbol{\Sigma}$を分解する必要があります。
$$
\begin{align}
\mathbf{A}=
\left(\begin{matrix}1&0\\0.3&1\end{matrix}\right),\\
\mathbf{D}= Var(\mathbf{u}_t)
\left(\begin{matrix}4&0\\0&0.64\end{matrix}\right)
\end{align}
$$
とすると、
$$
\boldsymbol{\Sigma} = \mathbf{ADA^{\top}}
$$
が成立します。
このため、$\boldsymbol{\varepsilon_t}$は次のように、
直交化撹乱項に分解できます。
$$
\left\{\begin{align}\
\varepsilon_{1t}&=u_{1t}\\\
\varepsilon_{2t}&=0.3u_{1t}+u_{2t}\
\end{align}\right.
$$
この撹乱項を用いることで、元のモデルがこのように変わります。
$$
\left\{\begin{matrix}\
y_{1t}&=& -1&+ &0.6 y_{1,t-1}&+ &0.3 y_{2,t-1}&+&u_{1t}\\\
y_{2t}&=& 1 &+ &0.1 y_{1,t-1}&+ &0.8 y_{2,t-1}&+&0.3u_{1t}+u_{2t}\
\end{matrix}\
\right.\
$$
$$
\mathbf{u}_t \sim W.N.(\mathbf{D})
$$
$$
\mathbf{D} = \left(\begin{matrix}4&0\\0&0.64\end{matrix}\right)
$$
この形に変形できれば、非直交化インパルス応答関数と同じ様に計算が出来ます。
例えば、$y_1$に1単位のショックを与えたときの同時点におけるインパルス応答は次になります。
$$
\begin{align}
IRF_{11}(0) = \frac{\partial y_{1t}}{\partial u_{1t}} = 1\\
IRF_{21}(0) = \frac{\partial y_{2t}}{\partial u_{1t}} = 0.3
\end{align}
$$
$IRF_{21}(0)\neq0$となるのが大きな特徴です。
ただし、逆に$y_2$に1単位のショックを与えても、$y_1$には影響がありません。
要するに次のようになります。
$$
\begin{align}
IRF_{12}(0) = \frac{\partial y_{1t}}{\partial u_{2t}} = 0\\
IRF_{22}(0) = \frac{\partial y_{2t}}{\partial u_{2t}} = 1
\end{align}
$$
これが三角分解の仮定により発生している現象であり、変数の並べ方が結果に影響してしまっている点です。
このためインパルス応答関数を使う時は、変数の並べ方に気を使う必要があります。
1期後先以降の値は、非直交化インパルス応答関数のときと同じ漸化式で逐次的に求めることが可能です。